BJリーグ ファイナル4

BJリーグのクライマックス。今年の王座を決めるファイナル4へ行ってきました。

出場資格は東西地区のカンファレンスプレーオフ準決勝を勝ち上がった4チーム。東1位浜松、東2位東京、西1位琉球、西2位大阪。浜松と大阪は苦戦したようだが、最終的には東西のリーグ上位2チームがすんなりファイナル4へと駒を進めた。


有明コロシアムはいつもの東京アパッチのホームゲームとは異なるファイナル仕様。冠スポンサーとフジテレビが入るイベントだけに、いつもと比べてぐっと華やかになる。中央に吊り下げ式のスコアボードがあり、ボード上部には4面に液晶LEDパネルのスクリーン。普段スクリーンがないのであるだけでも気持ちが高ぶる。(笑)


5/16 1日目

ウエスタン決勝 琉球93-大阪87

発足2年目の琉球は初見。アメリカ人HCを招聘した初年度の昨季は最後までチームは噛み合わず最下位だったが、大分の桶谷大HCを迎え、大阪からジェフ・ニュートンNBAの下部組織であるNBADLのFort Worth Flyersからアンソニー・マクヘンリーを補強。澤砥がSGから本来のPGに戻った今季はシーズンを41勝11敗でダントツの強さで西地区を1位に導く。

対するこれまでリーグ3連覇中の大阪は西地区2位。前述の通り、ジェフ・ニュートン琉球に移籍、Gのマット・ロティックもドイツリーグのデュッセルドルフに移籍と昨年優勝の礎を作った外国人選手が抜けた。仙台からライアン・ブラックウェル、ハンガリーのアトメロウムからナイル・マーリー、琉球からジャスティン・ノートンを補強したものの、昨季と比べたら正直見劣りする。昨季MVPの大黒柱リン・ワシントンがこのプレーオフでどこまで爆発できるか。

リン・ワシントンジェフ・ニュートンBJリーグの代表する名フォワードであるとともに、大学バスケの名門インディアナ大学の先輩後輩。注目のマッチアップとなった。


大阪は司令塔の澤砥、そして外から3Pが打てる金城を徹底的にマーク。大阪はガードの今野、マーリーが好調。第3Qまでに76-63と大阪が着々と勝利へと歩を進める。

しかし、琉球はここからが凄かった。これまで決まらなかった3Pが決まりだし、ペネトレイト、バスケットカウントなどで試合の流れを一気に寄せ付けた。琉球は残り30秒でニュートンが3Pを決め、ついに逆転に成功。大阪はファウルゲームに持ち込むも、追いつけず。第4Qは30-11と圧巻のスコアとなり琉球が歴史に残る逆転劇を演じた。ジェフ・ニュートンが50ポイントの活躍。この大舞台で古巣に対して男の意地というかプライドを見せ付けるプレーだった。


私的MOM:ジェフ・ニュートン
 

イースタン決勝 東京89-浜松84

1日目第2試合は東地区の決勝。東京は33勝19敗で東地区のシーズン2位。
元高松でプエルトリコリーグからセンターのジュリアス・アシュビーが加入したぐらいで、シーズンを通して地味な補強だったが、その代わり日本人選手が凄く成長したシーズンだった。
昨季までもレギュラーとしてプレーしていた青木康平や城宝に加えて、これまでプレータイムが少なかった仲西、岩佐、仲摩などが実践を積むことで自信を付けて才能の花が開きかけた年だった。もちろんHCのジョー・ブライアントの指導も大きな助けとなったことだろう。

一方、浜松は、昨季まではOSGフェニックスとして、もう一方のトップリーグであるJBLにいたチームが母体になって、今季よりBJリーグに転籍を図った変わり種のチームだ。スターの川村卓也をはじめ、主力選手のほぼ全員はJBLの他チームへ移籍したが、それでもこのチームにはOSGの資金力、施設、そして人脈とBJリーグではダントツのバックアップ体制が整っている。チームを率いるのは中村和雄氏。

個人的にはテレビの解説者としても記憶に残る人で88年のソウル五輪での準決勝でアメリカvsソ連の解説をしていた。ちなみに、この試合はドリームチームで挑んだアメリカがガチンコでソ連に負けた歴史的な一戦だったのだが、この人はこの解説でもコーチングでもそうなのだがやけに熱く、テンションが高い。

「でた〜!ダンクだあ!」とか
「すんごいプレーだなあ、こりゃ!」とか
俺でも言えそうなことを高テンションでまくしあげながら楽しそうに話すおじさんである。

これだとサッカーの松木安太郎とあまり解説スタイルが変わらないのだが、松木と異なるのは指導者としての実績だ。かつて日本の女子バスケにおいて、共同石油日本リーグ6回、全日本5階優勝と一時代を築いた日本バスケ界の名将だ。


バックに東証1部の企業を持つ浜松は、その資金力にモノを言わせて補強もえげつなかった。ジョシュ・ペッパーズ、アダム・ザーン、アンディー・エリスなどBJの各チームの主力外国人を根こそぎ獲得した。
中村HCの厳しい練習とチームの方向性のズレから頻繁に外国人選手の入れ替えが起こり、結局1シーズン通してプレーできた外国人は福岡から加入した天才肌のマイケル・ガーデナーと236cmの孫明明という、およそチームプレーから掛け離れた二人だったというのも何だか不思議だが、そうやって中村HCが、外国人の入り繰りを通じた試行錯誤の結果、年明け頃にはようやくチームが固まり始め、結局36勝16敗でシーズン地区1位。


浜松のバスケを見ていると、中村HCのやりたいバスケと実状が乖離している印象を受ける。でも、個人能力で言うと外国人選手の実力はリーグでもずば抜けていて、中村HCが言うことを聞かないわがままな選手を操る猛獣使いに徹した1年だった。そして、バランスを間違えればチームが空中分解するリスクを常に抱えていたにもかかわらず、結果を出したんだからこの人は凄い。


地味に選手の育成でチーム全体の地力を蓄えた東京と、派手にチームのスクラップ&ビルドを繰り返した浜松の一戦は予想通り、激しいコンタクトの一戦となった。


個人能力に上回る浜松のオフェンスを抑えるにはどうすればよいか。東京が出した答えが相手をファールトラブルに持ち込むことだった。ガーデナー、モリソンをはじめ、気性の荒い選手が多い浜松を苛立たせればファールトラブルで自滅する。それには激しいディフェンスで相手を精神的にも追い込むことが必要だ。実は、東京の選手も浜松に負けず劣らず気性の荒い選手が多いのだけれど、この日の東京は大人だった。


この日、浜松のレギュラークラスでファールアウト、あるいはファールトラブルに掛かったのは、レヴォン・ジョーダン、スタンリー・オシティー孫明明の3名。ガーデナーとモリソンもファール数こそ3つだったが、チームのトラブルと東京の激しいディフェンスに最後まで調子に乗り切れずじまいだった。


東京は特にセンターのニック・デービスとジュリアス・アシュビーが頑張った。普段こそ真っ先に4ファールを取られて、ファールトラブルに追い込まれるのだけど、この日はもう少しでファールを取られるギリギリのプレーで押さえ込み、インサイドの攻防を制した。


自分は浜松の日本人センターの太田に期待をしていたのだけど、この日はほぼ何もできず。日本人らしく勤勉に動くし、器用さもあるのかもしれないが、やはり他チームの外国人センターと比べるとスケール感というか、ここぞという時のプレーの勇敢さ、獰猛さに欠けるように思う。中村HCは「太田がこの1年間で予想よりも成長できなかったのが悔やまれる」と話していたようだが、シーズン途中で孫明明を見切って太田のプレイングタイムが増えていたならば、それこそ東京の日本人選手のように劇的な成長が見込めた可能性もある。実戦を経験することが、最も成長を遂げる近道だと思う。


東京の策略と浜松の自滅が垣間見えた試合は、84-89で東京がファイナルへと駒を進めた。点差以上に東京の完勝だった。


私的MOM:ジュリアス・アシュビー

5/17 2日目

3位決定戦 浜松91-大阪85

3位決定戦ってやる意義があるのか?


というのは、スポーツファンならばいろいろな場面で遭遇する議論のテーマである。例えばサッカーのワールドカップ。ワールドカップでの3位というのは充分に賞賛に値する素晴らしい栄誉だ。しかし、一戦必勝のトーナメントにおいてあと一歩で決勝に進む直前の直前で敗北に塗れたチーム同士で闘うその試合は、大抵それまでの深謀や肉弾戦、勝つためなら全てを賭ける闘いから離れ、まるで抜け殻のように空しげにフェアーに闘う試合が多い。3位決定戦には真剣勝負が持つ緊迫感や、勝者と敗者の間に横たわる決定的な溝というものが欠けるのが普通である。


BJのファイナル4では毎年3位決定戦を行っている。2日間の集中開催で全国より上位4チームを集めて行うこのトーナメントにおいて、地区決勝で敗れたチームを1日で帰すというのは、効率的にも金銭的にもあまりよろしくない。当然どのチームも決勝進出を想定した場合の交通費、宿泊費を負担しているだろうし、チームだけではなくファンだって金銭的にもそして時間を投じて有明に馳せ参じている。

またBJファイナルは、さすがNo1を決める試合だけあって、客層が通常のリーグ戦と違う。普段のリーグ戦では、正直、両チームのファンと関係者が大半で、ニュートラルで見ている人や、一見で来たライトな観客などはごく一部だろう。しかし、ファイナルでは明らかに初めて来たと思われる家族連れ、スポーツファンそしてバスケ部関連と思われる学生が多い。


そういった人たちにこのファイナル4の大勢の観客の前で3位決定戦を行うことは、まだまだマイナーなBJリーグや選手を知ってもらうためにも意義があることではないかと個人的には思うのだが、どうだろうか。


とは言えども、大阪と浜松の間で行われた3位決定戦は、前日のプレーと比較すれば明らかに精彩を欠いていて淡白な試合振りとなった。
大阪は、交替選手を含め昨日と同様のメンバーが出場したものの、いきなり第1Qで14-26と大きく引き離されるなど、いつもの確実な試合運びはなく、大黒柱のリン・ワシントンも見かけは気合が入っているのだが、どこか空回り。

浜松は対照的に昨日出場しなかったベンチ入り選手も出場させた。そこは中村HCの心遣いか。


試合は91-85で浜松が3位の座に輝いた。


前日の東京戦でも光っていたのだが、性格もプレーも一癖あるガーデナーやモリソンと比べて、地味なのだがフォワードのスタンリー・オシティのプレーが素晴らしい。フォワードだけに当然インサイドが強いのだけど、アフリカ出身らしくしなやかなフォームから放たれる3Pや外角からのシュートが高確率で決まる。BJでは2メートルを超えた長身選手になるとシュート確率が低くなるのだが、オシティの場合はインサイドでもアウトサイドでも点が取れる本物の選手だ。
来季も日本にいるかな?本来ならばBJよりも上を目指せる選手だと思うけれど。


直感的なものだが、大阪は一つのサイクルが終わったのかもしれない。正直言って、前日の琉球戦でチームのどこに戦術的な穴があったのかと言われれば特にはなかった。むしろ、チームとしての成熟、ゲームプランニングで言えば他のチームよりも一枚上で、さすが大阪、さすが天日という印象だ。しかし、他のチームと比べて何が劣っていたかといえば、個々の選手の能力と能力から来る爆発力だった。
大阪は何かが変わらなければならない。大阪にとって現状維持は衰退を意味する。


私的MOM:スタンリー・オシティ

ファイナル   琉球89-82東京

この文章はファイナル4が終わってから2週間経ったので今更の話なのだが、決勝が始まる前、自分は東京有利の予想を立てていた。

理由は簡単で、準決勝のそれぞれの勝ち方を見て、東京の方にまだ余力があるように思えたから。
もちろん準決勝を劇的な勝ち方で勝ち上がった琉球の方が勢いはある。しかし、王者大阪に対してこれ以上にないギリギリの勝ち方を収めた琉球は、まるでスラムダンクの山王工業戦の後の湘北のように、バーンアウトしてしまうのではないかと思った。

それに東京には昨年ファイナルを経験し敗れた悔しさがある。ほぼ昨季のメンバーを維持して無事にファイナルまで駒を進めた東京にとって、万全を配して臨んだはずだ。


有明にはBJリーグ最多の9358名の大観衆。舞台は整った。


意外にも琉球はゲームに自然体で入れたのに対して、東京は昨年のファイナル同様に気持ちが入っているのだが、動きが硬い。いつものように相手を見下しているかのような挑発気味のプレースタイルではなく、ディフェンスを意識した堅実な組み立てを行うのだが、裏目に出た。


象徴的なプレーがあった。


東京のジョン・"ヘリコプター”・ハンフリーが相手の3ポイントラインでパスを受けた。相手はマークを一人つけているが、インサイド含めてそれほど守備は厳しくない。
普段、BJリーグを見ている方ならばイメージできると思うが、この場合、彼はほぼ間違いなくドライブインインサイドに切り込む。

これはバルセロナのメッシがボール受けたら、まずドリブルを考えるのと一緒で、アメリカのストリートバスケで名を馳せたジョン・ハンフリーが相手がどんなに厳しくマークしようがその間を抜いて相手のリング前に持ち込もうとするのは、能力が飛びぬけたものだけに許された特権であった。
どれだけ周囲にフリーな味方がいようが、一度腰を沈めてドライブインの体勢に入ったジョン・ハンフリーは強引にでもショットを決める。
それが彼の持ち味だった。


第1Q、パスを受けたジョン・ハンフリーは、躊躇せずに流れるような美しいフォームで3Pを決める。その時、皆の勝利のために利己に徹する男が、自分の流儀を崩した。利他のプレーというよりも、この大一番で自分を突き通すことを選ばなかったように見えた。結果的にはその代償が大きかったように思う。


東京の選手が硬くなっている一方で、琉球の選手は自分の全てを出し切っているように見えた。

特にPGの澤砥がこの大一番のプレッシャーでのびのびとプレー。JBLのアイシンのときにすでに大舞台を経験したりしているのでまあ不思議ではないのだが、ファイナルのようなクローズなゲーム展開の場で、周囲との力の差を見せ付けることができるというのは凄いことだと思う。

加えて、アンソニー・マクヘンリー、ジェフ・ニュートンフォワード陣も奮迅の動きだった。この日、ジェフ・ニュートンは東京のインサイドに応戦するため、守備の方に重きを置いた動きだったが、その分、アンソニー・マクヘンリーが19点7リバウンドと大爆発。さすがはGeorgia Techのプレーヤーだった男だ。


第2Q以降、東京は相手ではなくレフェリーの判定と戦う悪い癖が出てくる。せっかくの大一番なのに馬鹿らしいのだが、ジョー・ブライアントHC自ら取り乱して、レフェリーに食って掛かるようでは、勝てる試合も勝てなくなる。まあ、そうやって選手と一緒に気持ちを高めていくのが、この人の良い部分でも悪い部分でもあるから一概には言えないけれど。


第3Qの終盤、城宝がファールアウト。昨年もそうだったが、城宝は大切な部分で試合の流れを自ら断ち切ってしまう。
第4Q、東京はファールゲームに持ち込んで、シックスマンの岩佐の3Pで必死に喰らいつくが、追いつけず。琉球が89-82で創立2年目で王座に輝いた。
ファイナル4のMVPは、2日間続けて鬼神のような活躍を見せた琉球ジェフ・ニュートン。文句なしの受賞だった。